初期の著作はとても読みづらかった。批判の矛先が理解できない状態でガミガミ怒られている感じ。同時代に生きて雑誌でふと見かけたら共感できるのだろうか。村野藤吾は震災大戦といった激動期の中でぶれずに思想を貫いた孤高の存在との先入観があった。本書は大正8年から昭和53年の著作が厳選されているが、一貫しているのは批判と扇動による正当化のように感じられた。事務所勤務も長く自己表現と時代との葛藤も見える。建築創作の中では多くの要素が絡み合うため成立させるだけでも一苦労である。施主の要望・思想、財政状況から始まり施工環境や物流、法規制など外的要因をコーディネートするだけでも建築は姿を現す。それが自己の思想やあるべき姿との差を感じ抵抗することもできる。ただ自然に現われてきた姿を受け入れることも負けではない気もする。
様式の上にあれ 村野藤吾著作選 鹿島出版会
TSUKASA WATANABE
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