書庫建設に関する松原さんの連載記事に竣工後書き下ろされた堀部さんの文章が加わって一冊にまとめられている。そのため往復書簡といったスリリングな駆け引きは味わえないが、小さなプロジェクトの「起こり」を知ることができる。特に松原さんの赤裸々な出生の記述には恐れ入る。それらのバックグラウンドを知っているのと知らないのとでは設計・建設に対しての見方が異なってくる。顛末としては施主の細かな要望を押しのけて設計を進めていくのであるが、長年の信頼関係と建築家の信念があるからこそ成せる業、うらやましくも自分もいつかそうなりたいと興奮して読み進めた。しかし、建設中やあとがきに記された堀部さんの告白には不安の言葉が目立った。形や評価のない「もの」に先行投資として設計依頼される施主にとって建築家の自信が唯一の支えになると考える。事務所や個人に地位や実績があっても変わったこと、新しいことをやりたがるのが建築家というものである。説得力ある資料を提示したり、明快なプレゼンをするのも良いが、一言、「大丈夫、任せてください」と伝えられることが大切な気がする。
書庫を建てる 1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト 松原隆一郎/堀部安嗣 新潮社
TSUKASA WATANABE
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