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住宅論 篠原一男 鹿島出版会

TSUKASA WATANABE

事務所務め時代、2度住宅設計に関わった。ひとつは入所したばかり、OZONEコンペからの住宅改修であった。未熟すぎて納まりが全く分かっていない状態だったが、若い夫婦はものともせずセルフビルドでカバーしてくれた。ローコストでありながら溌剌とした印象が残った。もうひとつはホンのこの前、3件目の公共建築を終えたばかりですでに入所してから9年目を迎えていた。現場常駐勤務から事務所勤務に戻り、特定のプロジェクトに付かずコンペを担当していた。落選が4つか、5つ続いたころ住宅増築のヘルプに入った。途中で止まっていたプロジェクトを一気に進める必要があったが複雑な心境であった。コンペが負け続けていたため半年ぶりに設計ができる喜びがある反面、たかだか60m2程度の増築を設計することに対する劣等感があった。周りでは後輩しかいないスタッフたちが大きな仕事をしている。それに比べて何をやっているのだろうと、まったく設計に乗れていなかった。そんな時に出会った本である。涙が出た。自分が恥ずかしかったし、奮い立った。住宅の素晴らしさ。誇り高き美の世界。なんと尊い行いなんだろう。住宅論は12の論文で構成されている。同時期に書かれたものではなく、新旧の差が約10年ある。あとがきでは「このようなたたかい方を選んできたひとりの建築家の記録」とある。1950年代後半から70年代といえば高度成長期。戦災復興住宅以後は建築ムーブメントは巨大化の一途を辿る時代である。あえて小さな個人の住まいを設計し続ける勇気。言葉にならない。

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